少女未満26

奏多がいっくんを最初に連れて行ったのは、

あー此処って

所謂イケてる系の、同世代カースト圧倒的頂点に君臨してる男子たち御用達のお店だ。

うわー無理だわ

と、いっくん。

ゴミでクズの生きてるだけの燃えないゴミが足を踏み入れていい場所じゃないわー

うーん

ぼくも、正直迷う。

てか、苦手だ。

そもそも、異世界なんじゃないかって思ってしまう。

想像も出来ない、こんな世界。

どうなってしまうの?

絶対無理だ。

帰っていい?

いや、駄目だよ

と、奏多に阻止される。

門前払いだろ、フツーに

だって、引き籠り少年と、乳臭いちびっ子だ。

お呼びでない感、満載じゃない?

大丈夫だって

奏多は言うけれど。

お前、その自信は何処から来るの?

いっくんは、まるで尻尾の垂れた子猫だ。

どうしてそういうこと、断言できるの?

お引き取り願われるに決まってるのに。

解ってて、行くことなんて出来ないよ。

幾らなんでも、いっくんが可哀想だ。

平気なんだって

尚も奏多は、言う。

だから、何で?

いっくんが、ビクビクしてる。

怯えきった目をしている。

この場にいる誰よりも、弱弱しかった。

これがいっくんの地だ。

ちゃんとデザイナーには、断ってあるから

はぁぁぁ?

デザイナーって。

断ってあるって。

知り合い?

ぼくが尋ねると、

まぁね

何てことないように。

貢いでもらってる女の一人ってこと?

と、いっくんは身も蓋もな言い方をする。

そういえば、女の人だった。

此処のデザイナーの人。

そんなお姉さんとも、付き合ってるの?

奏多って。

ぼくは、呟く。

奏多って、奏多って

後の言葉が、続かない。

ガールフレンド、多すぎ。

そして、レベルが高すぎ。

ぼくたちとは、人としてのランクがもう違ってしまっているのかもしれない。

何なの、マジ!お前、想像を絶するよ!めっちゃ、怖いわ!!

本気で恐怖する。

いっくんが、壊れかけてる。

そんなに驚かなくたって

奏多は、暢気に笑う。

いや、フツーの反応だろ!?

うん。

ぼくも、そう思うな。

絃護兄さんが、外の世界を見てないだけだって

そういうことじゃないだろ!

幾つになっても、一生触れ合えないと思っていた。

なのに、いつも間にか奏多は次のステージへ向かっていた。

絃護兄さんのこと話したら、連れておいでって。一緒に、変わるお手伝いしてくれるって

余計なお世話だ

いっくんには、本当に辛いのだろう。

ただでさえ、外の世界を遮断してきたのに。

見知らぬ年上の女の人にべたべた触られるのって、地獄でしかない。

俺の現状、知らないから言えるんだ。そんな簡単なことじゃない

いっくんの言う通りかもしれない。

いっくんの言うことが正しい。

でも、何も知らない人たちにとっては。

引き籠ってるいっくんの方がどうかしちゃってるんだ。

いいから、ほら

どん、といっくんを押す。

いっくん

はい、もう中に入っちゃった。

やっ!

いっくんの反応が可愛い。

も、出るっ!!

キュン死させる気?

ぼくは、一人で勝手にドキドキしてる。

多分、一番真っ赤になっている。

絶対、熱が高くなってる。

色と、気化してしまいそうだ。

あ。ねぇねぇ。柊月さんいるかな?

続いて中に入っていく時、店員の一人に尋ねる。

奏多だよって、伝えてくれると、いいと思う

そんな、軽い。

いいのか、デザイナーの人を、呼びつけるとか。

奏多は、ぼくの想像以上だった。

何か、いつも学校で一緒にいるとか信じられない。

あれが幻だった気がしてならない。

現実、の筈だけど。

あ、何だ?ホントに奏多くん?

現れた女の人は。

本当に柊月さんだよ、ね?

顔なら、ぼくも知っている。

去年から、父が彼女のブランドのイメージモデルをやってるのを思い出したのだ。

そうだって言ってるじゃない

と、奏多が笑う。

信じてなかった?

うーんそうじゃないけど

まさか、一流の人に、こうして会えるとか思ってないから。

いっくんなんて、もう固まってるし。

同じ空気吸っていいのか分からない

とか、悩んでるし。

息を止めちゃうし。

吸って、息!

じゃないと、死んじゃうし。

無理!俺なんかが

既に、窒息寸前っぽい。

いっくん!

ぎゅ、といっくんの手を握る。

お願い、息をして。

だけど、自分で息を止めて死ぬのって、難しい。

体は、生きようとしてしまう。

生きる為に、生きているからだ。

他に、理由なんてない。

だから、いっくんも彼の意志に反して、結局酸素を求めてしまう。

荒い呼吸。

背中が激しく揺れる。

えっ?何?

と、柊月さん。

奏多くん、可笑しいねこの子たち

この子たち、って。

複数形?

ぼくも含まれてる

みたいだネ

奏多まで、クスッと笑う。

()

彼女は大きな声で、叫ぶように言う。

ぼくの顔を両手で挟み上げて。

可愛いのに、可笑しいね

柊月さんには、誉め言葉なのだろうか?

ぼくは、軽く傷つきますが?

この可愛いお嬢さんを、変身させればいいんだっけ?

とても嬉しそうだが、そうじゃない。

てか、ぼくは複雑だ。

違うー

ああ、年上のお姉さん相手だと、奏多はこうなるのか。

別にどうでもいいことだし、確かめる必要もないことだが。

僕の兄さんだって

お兄さん?この子?可愛いお嬢さんに見えるけど、男?

ち、違っ

慌てて否定。

ぼくは、男じゃない。

男に見られて憤慨するわけじゃないけれど、これでも一応女だって自覚している。

男になりたいわけでもない。

柊月さんは、勘違いしたのだ。

奏多は、変身させてほしいのは、自分の兄。

だから、その子を変身させるんじゃないよ、という意味で言ったのだ。

しかし、柊月さんは変身させてほしいのは、自分の兄。

だから、その子はお嬢さんではないよ、男だよ、と受け取ったのだ。

その子は、心結ちゃん。ぼくの兄さんじゃないよー

だよね、そう思った!

と、彼女はなかなか調子がいい。

此処までの様子を見ていると、サバサバ系女子みたいだ。

姉御肌ってやつ?

だから、女子の服じゃなくて男子の服のデザインの方が得意なのかな。

嫌いな感じの人じゃ無い。

でも、正直、顔をサンドイッチされたのは辛かった。

で、心結ちゃんって、奏多くんの何?

女性であることに変わりはないから、他の女子の存在は気になるわけだ。

ガールフレンド?

えっ!?

何で、そう思う?

確かに、奏多はいろんなお姉さまに可愛がってもらってる。

誰か一人に決めてるわけじゃない。

皆の奏多くん、というやつだ。

でも、ぼくは、その中に含められては心外なのだ。

従妹だよ

奏多は、其処で嘘はつかなかった。

無意味だから。

それに、嘘なら嘘をつく度に、心への負担が半端ない。

従妹?妹かと思った

うん、たまに言われる

と、奏多が笑顔で答える。

僕は、母似だし、心結ちゃんはお父さんに似てる。ぼくの母と心結ちゃんのお父さんは、姉弟だから

子供同士が顔が似てても、可笑しなことじゃない。

僕の兄は、こっち

いっくんが指した場所に、既にいっくんはいなくなっていた。

あれ、と首を傾げる。

いつの間に移動?

気を逸らしたのは、僅かな時間だけだ。

その隙に、一体どこへ?

逃げた?

と、奏多が呟く。

どうしよう。

逃げたとか、困る。

逃げてないし

いっくんの声だ。

ぼくから、ちょっと離れている。

避けられてる?

そうじゃない。

単に、柊月さんから離れただけだ。

年上のお姉さんは、苦手なのだ。

彼女の外見は、イケメン風なんだけど。

()

と、柊月さんは、無遠慮にいっくんを見つめる。

彼が、奏多くんのお兄さん、ねぇ

明らかに、何か言いたげだ。

言外にいろいろ隠している。

そんなに、変?

ぼくは彼女を見上げた。

いっくん、そんなにおかしい?

確かに、引き籠りだ。

いつから着ているか分からないシャツとジャージのズボン。

何日間梳かしてないか分からない髪の毛。

汚いサンダル履きに素足だし、みすぼらしい。

でも、いっくんは変なんかじゃない。

異常なんかじゃない。

もしそうなのなら、彼をこんな風にしてしまった世界が悪いのだ。

ぼくは、いっくんのところに行った。

ここ?

心結ちゃん?

いっくんと奏多が、同時に反応した。

いっくんのこと、酷い風に言わないで

気づいたら、ぼくはそう言っていた。

父のことをブランドのイメージキャラクターに使ってくれていることには、感謝する。

でも、いっくんのことは話が別。

何か、いっくんが傷つくことを言ったら、グーで殴ってやる!

いっくんのシャツの裾を握る。

柊月さんを見上げた。

ぼくは、いっくんを護るつもりだった。

傷つけさせない。

もう、これ以上、心を壊させない。

ぼくが、守るんだ。

奏多くん、もしかして?

柊月さんは、何かに気づいたようだ。

きみの従妹のお嬢さんって、きみのお兄さんと?

(m)クスッ

笑うことで、返事に変える。

つまり、否定しない。

可愛いでしょ?僕の兄さんと心結ちゃん

可愛いって!

いっくんが、突っ込む。

兄を可愛いとか言うの、どうなんだ?

事実、可愛いのだから、しょうがない

と、奏多。

そうだね、可愛いね

と、柊月さんが頷く。

御飯事みたいだね

いっくんとぼくとを、見比べる。

え?

言外に、もっと隠されている言葉。

良い意味でも、そうじゃない意味でも、幼いねって言われてる?

夢しか見ないで、まるで子供だ。

子供だけど。

否定しないけど。

失礼しちゃう。

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